第6回優秀事例研究賞 (2025年10月授与)

事例研究 : 「被相続人である子から相続人である親に対して継続的になされた少額贈与が「生計の資本の贈与」に当たらないとして特別受益該当性が否定された事例」

発 行 : 学会誌 第12号  2024年10月

執筆者 : 池浦 慧 氏 (弁護士)


【要旨】(事例研究の冒頭を引用)

 被相続人は死亡時において現役の医師であった。被相続人は生前に遺言書を作成しておらず、被相続人の法定相続人は配偶者(以下「甲」という。)及び実母(以下「乙」という。)の2名である。被相続人に子はおらず、また被相続人の実父(乙の配偶者)は、被相続人に先立って死亡した。
 被相続人は生前、約20年にわたって乙に対し、月額10万円を送金していた(以下「本件送金」という。)。本件送金の累計額は、2000万円を上回っている。乙は本件送金の開始時から被相続人の死亡時に至るまで、一貫して被相続人による扶養を必要とする経済状況にはなかった。
 このような状況において、甲は、本件送金が「生計の資本の贈与」であり特別受益に該当すると主張した。第1審は甲の当該主張を排斥したため、甲が即時抗告した。

事例研究 : 「評価通達 総則6項による不動産評価の否認と相続税対策」
発 行 : 学会誌 第12号  2024年10月
執筆者 : 片 ユカ 氏 (片 ユカ税理士事務所 税理士)

【要旨】(事例研究の冒頭を引用)

 もし、相続開始時の財産が現金2億円であれば相続税評価額は2億円である。けれども相続開始前に現金2億円で1億円の土地、1億円の建物を購入した場合、路線価等の評価通達によれば、土地は8割、建物は6割程度の評価となるため、全体で3割ほど相続税評価額が低くなる。その実勢価格と通達による評価額のかい離を利用して不動産購入による相続税対策を行った事案に対し、国税当局は通達評価額での申告を否認することがある。そして、独自の鑑定評価額で課税処分をし、訴訟となった事案の一つが、令和4年に初めて最高裁まで持ち込まれた結果、国側が勝訴した。この判決により、今後は不動産の購入による相続税対策をした場合、路線価等の通達による評価額ではなく、鑑定評価をして申告する必要があるのか?どんな場合に否認されるのか?という質問が多くなっている。
 本稿は、この令和4年4月19日最高裁判決の事案を題材として、どんな相続税対策が国税当局から否認され、なぜ一般に認められる路線価等の通達による相続税評価額を、当該案件だけ否認することを裁判所が認めたのかを研究することでこういった疑問に答えようとするものである。

事例研究 : 「複雑な状態の不動産の遺産分割について」
発 行 : 学会誌 第12号  2024年10月
執筆者 : 佐々木 好一 氏 (田中・石原・佐々木法律事務所 弁護士

【要旨】(事例研究の冒頭を引用)

 相続は、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継し(民法896条)、相続人が数人あるときは、相続財産はその共有に属する(同法898条1項)。
 その共有割合は民法900条から902条までの規定により算定されることとなり(民法898条2項)、その割合により遺産共有となった遺産の共有を行うこととなる。相続財産を相続分どおりに分割することが円満な相続においては必要となるのであるが、相続財産には多様なものが存在するため、スムーズに分割することが難しい事態がしばしば起こり得る。特に、遺産に不動産がある場合、さらにそれが複雑な権利状態にある場合には、困難性が高まる。そこで、本研究発表では、当職が実際に関与した案件の中で、複雑な状態の不動産について扱ったものを参考に、事例発表を行いたい。

事例研究 : 「知的障がい者を取り巻く成年後見制度の課題 ~NPO法人後見事業の実践から~」
発 行 : 学会誌 第12号  2024年10月
執筆者 : 林 俊和 氏 (一般社団法人きりん座 相談支援事業所もー さん 代表理事 社会福祉士

【要旨】

 本稿は、社会福祉法人勤務や相談支援を通して長年知的障害者を支援してきた筆者が、NPO法人設立による法人後見事業を通して経験した事例を基に、成年後見制度の課題と、より柔軟で効果的な運用に向けた提言を行う。具体的には、利益相反問題、相続問題、共同後見、後見人の役割と資格、家族との連携、そして後見制度の現状における課題を、実践的な事例を交えながら考察する。

第5回優秀事例研究賞 (2024年10月授与)

事例研究 : 「生命保険契約と特別受益性」(広島高決令和4年2月25日 家庭の法と裁判41号50項)

発 行 : 学会誌 第11号  2023年10月

執筆者 : 大杉 麻美 氏 (日本大学法学部 教授)


【要旨】(事例研究の冒頭を引用)

 民法903条1項は 被相続人からの遺贈、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本としての贈与につき持戻を認めるところ、生命保険金請求権の特別受益性該当性については学説・判例において見解の分かれるところであった。最高裁平成16年10月29日決定は学説・判例における見解の相違に対し、民法903条の趣旨を考慮し「到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合」には特別受益に準じて持戻しの対象となると判示している。以降判例はもっぱら「特段の事情」を具体的に判断し特別受益該当性を判断しているが、「特段の事情」の射程範囲については明確ではなく、共同相続人の公平をはかりつつ、どのような事情を「特段」と認めるかについては個々の裁判の判断に委ねられているのが現状である。本稿では広島高決令和4年2月25日の判例を素材として、特段の事情の限界について検討するものである。


事例研究 : 「事業承継に関わる株式評価とホールディング会社設立の問題」
発 行 : 学会誌 第11号  2023年10月
執筆者 : 森田 純弘      氏 (森田純弘税理士事務所 税理士)

【要旨】(事例研究の冒頭を引用)

 事業承継のための「相続」あるいは「相続税」対策として、税理士の顧問先の会社が、顧間税理士の知らない間にホールディング会社を設立しているケースが日本全国の各地で起きている。ホールディング会社は、「持株会社」のことであり、ホールディングスとかホールディング・カンパニーとも呼はれる。私の感じる限り5年ほど前から増加傾向にあると思う。各地の銀行と既存の会社の顧問ではない税理士(税理士法人を含む)・コンサルティング会社とがタッグを組みホールディング会社設立までは行なう。しかしながら、その後の新設された会社の面倒を顧問でない税理士・コンサルティング会社が見るケースは少なく、元々の顧問税理士にそのホールディング会社をまかせていることが多い。

 彼らの目的は一体何なのであろうか?「ホールディング会社を設立することによって、株価が下がると言われたが」そういうことがあるのだろうか?それならば、株価を下げたいと思っている全ての企業がホールディング会社を設立することになるであろう。また、国税庁が、株価を下げることだけを目的としているホールティング会社の設立といった一連の行為を放置するのだろうか?その他の目的はあるのか?
 以上をテーマに内容上取引相場のない株式、いわゆる非上場株式を前提に関わる問題点について検証する。なお、事業承継税制については触れていない。

第4回優秀事例研究賞 (2023年10月授与)

著作名 : 「人生100年時代揉めないための相続」~何を成し何を残しますか~

発 行 : 学会誌 第10号  2022年10月

執筆者 : 池畑 芳子 氏 (池畑会計事務所 税理士)

【要旨】(事例研究の冒頭を引用)

 人生100年時代を見据えた老後の人生を充実させるためには、心身共に健康な体を維持することが大切です。我が国の総人口は、2022年2月1日現在、1億2519万人、65歳以上人口は、3624万人となり、高齢化率は28.9%です。超高齢社会の進展とともに増え続ける認知症高齢者は、2025年には700万人に達すると言われています。将来を具現化することで自分の考えが明確になると、相応しい将来像を描くことが出来ます。

第3回優秀事例研究賞 (2022年10月授与)

事例研究:「民事信託受託者のリバースモーゲージ型借入による相続対策」

発 行:学会誌第9号 2021年10月

執筆者:澁井 和夫 氏 (世田谷信用金庫 顧問)

【要旨】
 90歳の老母の自宅不動産資産を長男が信託して、信託受託者としてリバースモーゲージ型の借り入れを行うと、税務上は信託財産に生じる負債は母の負債とカウントされることから、相続対策上メリットがある。

第2回優秀事例研究賞 (2021年10月授与)

事例研究:「高齢者間の相続における諸問題」学会誌第8号掲載
執筆者 : 髙野良子(福田耕治法律事務所 弁護士)

【要旨】
 高齢の兄弟姉妹間で生じる相続における具体的事例(所在確認、意思能力問題、遺産分割協議における調停利用の困難性、不動産の処理等)を紹介する。

事例研究:「相続と祭祀承継」学会誌第8号掲載
執筆者 : 水上 卓(日本橋法律会計事務所 弁護士)

【要旨】
 相続の際の祭祀承継について争いとなった事例をもとに、相続財産と祭祀財産の違い、祭祀承継者の決定方法、祭祀承継で争いとならないための対策等について整理した。


第1回優秀事例研究賞 (2020年11月授与)

事例研究:「相続制度が生み出す所有者不明土地」学会誌第7号掲載
執筆者:宮田 百枝 (麹町共同法律事務所 弁護士)

【要旨】
 相続発生後、被相続人の生前に、主に同居している親族などが、被相続人のキャッシュカードを利用して、複数回にわたり預貯金を引き出していることが判明することがある。預貯金を引き出した動機や金額は様々であるが、相続発生後にその事実を知った相続人が、引出しをした相続人に対して不信感を抱いて、遺産分割協議が円滑に進まない大きな要因となってしまうことがある。しかし、家庭裁判所では、このような問題は、遺産分割の前提(不随)問題として、基本的に、地方裁判所で扱うべきであるとされてしまう。また、事案の性質上、激しい感情的対立があるのに、領収書等もあまり保管されていないことが多く、解決に多大な労力と時間がかかってしまう。そこで、トラブルとなってしまった場合に早期に解決する方法、および、このようなトラブルを事前に防止するための方法等について考察した。


事例研究:「所有者不明土地問題における基本的問題点の整理」―お隣さんの荒廃した土地トラブル 学会誌第7号掲載
執筆者:水上 卓 (日本橋法律会計事務所 弁護士)

【要旨】
 平成23年の東日本大震災の復興事業の際、所有者不明の土地が、土地再開発等を行おうとした際に大きな妨げとなった。そのため、それをきっかけとして「所有者不明土地問題」が大きな問題として議論されるようになり、現在、活発な議論が行われている。
そこで、今回の事例研究は、所有者不明土地に関する事例をもとにして所有者不明土地問題の問題点や発生原因等の基本的な事項についてまとめる。


事例研究:「被災地の復興事業における相続未登記の弊害と事業推進の迅速化+α」 学会誌第7号掲載
執筆者:小林 正宣 (株式会社クオリスコミュニティ 宅地建物取引士)

【要旨】
 東日本大震災時、岩手県釜石市の片岸海岸では、津波の高さはゆうに10mを超え、高さ6.4mの防潮堤の約3分の2が完全に決壊し、かろうじて決壊を免れた箇所も、広い範囲で地盤変動により約1m沈下した。木造家屋は2mの津波で全面破壊、4mの津波で石造家屋や鉄筋コンクリートでも持ちこたえにくいといわれている。
 そのため防潮堤の背後地の鵜住居地区では、津波がJR山田線、国道45号を越え、約3㎞も鵜住居川を遡り、この地域の多くの住民の命と暮らしを奪ったのである。このため新たな防潮堤復旧工事では、防潮堤の高さを14.5mに嵩上げするとともに、鵜住居川河口部に同じ高さの水門を建設し、津波・高潮による被害軽減、地域住民の生命の保全を図ることになった。
 東日本大震災の津波により、壊滅的な被害を受けた岩手県釜石市の「片岸海岸防潮堤復旧工事」の事例を検証する。