第2回優秀事例研究賞(2021年10月授与)

■優秀事例研究賞

「高齢者間の相続における諸問題」学会誌第8号掲載
著 者 : 髙野良子(福田耕治法律事務所 弁護士)

【要旨】

高齢の兄弟姉妹間で生じる相続における具体的事例(所在確認、意思能力問題、遺産分割協議における調停利用の困難性、不動産の処理等)を紹介する。

【審査意見書から】

実際によく生じうる高齢者の相続問題について、複雑な事案の問題点を的確に把握した上で分析し、本質に迫る実践を行っている。弁護士は利益相反をしてはならないのではあるが、このような高齢かつ心身共に完全とはいえない複数の相続人がいて、大きな分割の方針が一致しているようなケースにおいては、弁護士が全員の調整役として遺産分割をリードしていくことも十分あり得るものと思われる。姉弟が相続人であり,多数にわたったり不在や認知症の方がいるなどの問題は増えているので実践的で役立つと思う。

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■優秀事例研究賞

「相続と祭祀承継」学会誌第8号掲載
著 者 : 水上 卓(日本橋法律会計事務所 弁護士)

【要旨】

相続の際の祭祀承継について争いとなった事例をもとに、相続財産と祭祀財産の違い、祭祀承継者の決定方法、祭祀承継で争いとならないための対策等について整理した。

【審査意見書から】

祭祀の承継というあまり目立たない問題について、独創的かつ丁寧な分析及び論述を行っている。実際にトラブルになる事例も多くあると思われることから、円満・円滑な相続のために重要な研究テーマであると思われるが、適切な考察がなされ、思考過程・結論が適切に示されている。祭祀財産の相続は,法律規定の役割が限られており,重要かつ厄介な問題であるところ,本稿は,丁寧な考察を行っている。


第1回優秀事例研究賞(2020年11月授与)

■優秀事例研究賞

論説名:「相続制度が生み出す所有者不明土地」学会誌第7号掲載
著 者:宮田 百枝 (麹町共同法律事務所 弁護士)

【要旨】
相続発生後、被相続人の生前に、主に同居している親族などが、被相続人のキャッシュカードを利用して、複数回にわたり預貯金を引き出していることが判明することがある。預貯金を引き出した動機や金額は様々であるが、相続発生後にその事実を知った相続人が、引出しをした相続人に対して不信感を抱いて、遺産分割協議が円滑に進まない大きな要因となってしまうことがある。しかし、家庭裁判所では、このような問題は、遺産分割の前提(不随)問題として、基本的に、地方裁判所で扱うべきであるとされてしまう。また、事案の性質上、激しい感情的対立があるのに、領収書等もあまり保管されていないことが多く、解決に多大な労力と時間がかかってしまう。そこで、トラブルとなってしまった場合に早期に解決する方法、および、このようなトラブルを事前に防止するための方法等について考察した。
【審査意見書から】
遺産分割協議が円滑に進まない要因を「使途不明金」に問題提起し、多方面で考察している。
被相続人の生前に引出された預貯金が使途不明金になる場合、相続人の間で疑心暗鬼を生ずる事態となる。実務では相続人間で解決できない場合には地方裁判所で民事訴訟(不当利得返還請求権や損害賠償請求権の訴え)を提訴し解決を図ることをすすめている。
改正民法906条の2についても記述されており、遺産分割前の遺産の「処分」や処分された財産であっても、共同相続人全員の同意があれば分割時に存在するものは、「遺産」とみなすこと等についても記載されていてわかりやすい。本稿は時系列的に手際よく記述されており、早期解決の方法やトラブル防止の方策が丁寧に示されている。

■優秀事例研究賞

事例研究:「所有者不明土地問題における基本的問題点の整理」―お隣さんの荒廃した土地トラブル 学会誌第7号掲載
著 者:水上 卓 (日本橋法律会計事務所 弁護士)

【要旨】
平成23年の東日本大震災の復興事業の際、所有者不明の土地が、土地再開発等を行おうとした際に大きな妨げとなった。そのため、それをきっかけとして「所有者不明土地問題」が大きな問題として議論されるようになり、現在、活発な議論が行われている。
そこで、今回の事例研究は、所有者不明土地に関する事例をもとにして所有者不明土地問題の問題点や発生原因等の基本的な事項についてまとめる。
【審査意見書から】
所有者不明土地問題についての問題点の指摘や発生原因の分析などの基本的な事項について、よくまとめられており、また、一般人にも理解しやすいような表現方法がとられている。
実例をもとに、現行法における対応策が紹介されている。公示送達の制度を利用する方法や、不在者財産管理人を選任する方法の仕組みと問題点を判り易く解説されている。

■優秀事例研究賞

事例研究:「被災地の復興事業における相続未登記の弊害と事業推進の迅速化+α」 学会誌第7号掲載
著 者:小林 正宣 (株式会社クオリスコミュニティ 宅地建物取引士)

【要旨】
東日本大震災時、岩手県釜石市の片岸海岸では、津波の高さはゆうに10mを超え、高さ6.4mの防潮堤の約3分の2が完全に決壊し、かろうじて決壊を免れた箇所も、広い範囲で地盤変動により約1m沈下した。木造家屋は2mの津波で全面破壊、4mの津波で石造家屋や鉄筋コンクリートでも持ちこたえにくいといわれている。
そのため防潮堤の背後地の鵜住居地区では、津波がJR山田線、国道45号を越え、約3㎞も鵜住居川を遡り、この地域の多くの住民の命と暮らしを奪ったのである。このため新たな防潮堤復旧工事では、防潮堤の高さを14.5mに嵩上げするとともに、鵜住居川河口部に同じ高さの水門を建設し、津波・高潮による被害軽減、地域住民の生命の保全を図ることになった。
東日本大震災の津波により、壊滅的な被害を受けた岩手県釜石市の「片岸海岸防潮堤復旧工事」の事例を検証する。
【審査意見書から】
非日常な状況における創意工夫が、平常時に大きく役立つと思う。今回の経験はまさにそういったものであり、今後の相続未登記事案に活用を期待する。
被災地復興に向けて、行政、裁判所、弁護士、司法書士の迅速な連携が解決モデルケースに選定された要因であることが理解できた。自然災害からの早期復興には土地収用手続きの効率化が一番の問題点で、全国レベルで対応チームを組成しておく必要があると思った。
具体例をもとに所有者不明土地の問題を非常にわかりやすく深堀りしている。弁護士会、司法書士会、家庭裁判所、県の協力があって、所有者不明を収用する方法が考察されている。